湯先生の描く「情」とは。

玉さん版「牡丹亭」の第三場「離魂」の冒頭で杜麗娘が語る
「この世の中に恋心ほど濃いものがあろうものか」という台詞が
シネマ歌舞伎を観た時から、妙に気になっていました。

「恋心」という言葉が、杜麗娘にどうも似合わないというかピンとこないというか。
南座の時は「情ほど濃いものがあろうものか」になっていることもわかりました。

恋心」の方が意味はよくわかるけど
」の方が杜麗娘が話しそうな言葉だなと(思い込みが激しいです私)。
今回も「恋心」になっています。なぜ、変えてしまったのかな。少々不満。

その後、アユムさんから、原文が『人間何物似濃』であることを教えていただき
また、TVの牡丹亭特集で玉さんが手に持つ資料に「世間何物以濃」と書いてあるのを見て
ますます、この「情」という言葉の意味が知りたいなあ、と思い始めました。
そんな時、アマゾンで面白そうな本を発見

これがその本です。

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中国人にとって「情」とは、どんな意味を持つ言葉なのか!
思想書や小説、詩や演劇の中で、「情」がどのように描かれ、語られてきたのかが
歴史的背景と共に解説されているのですが、湯顕祖が描いた「牡丹亭」の中の
「情」についても、具体的に言及されていました!
おー、コレコレこれが知りたかったの、うひゃひゃ。

この本によると、明代には「情(恋情や人情)」を描く文学作品が増えて、
なかでも、湯顕祖は「情」こそ人間生活に欠かせないものと唱えて、
「牡丹亭」の脚本の中で「情」とは何かを具体的に示したこと。さらに
「情」を、謡い、せりふ、しぐさなどを通して多様な形で表現したことが解説されています。
(ここでも謡の部分は難しい文語で書かれているとあります。玉さん凄い!)

自分が幽霊になってもまったく恐れなかった柳夢梅のことを
杜麗娘は「情重き人」といい「情」の糸が断たれぬと表現しているそうです。

杜麗娘は恋のために一度死んだ後、二人の深い情が天地を感動させて生き返った。
「牡丹亭」ではこうした生死の境を超えた「情」が隠喩として語られていて
「情」が「死」と「再生」のイメージと直結していることが
当時の作品の中では、意表をつくものだったそうです。
(孔孟以来、「情」はずっと生の現象だったから)

一方、単に恋をしているだけでなく、教養もあり感受性も高い主人公たちの
愛する人に寄せる深い情愛を、湯顕祖は「多情」という言葉で表現しています。
感受性が高いこと=品格が高いことの隠喩としていて、戯曲の中で主人公たちの
「多情」ぶりを描いたのは「恋情」の上品さを引き立てるため、だったのだそう。

うーむ、中国人にとっての「情」を理解するのは難しい、奥が深い、深過ぎます。

やはり「恋心」では何となく気恥ずかしく、単一的で浅い気がして、かといって
「情」では意味が広過ぎるし。「恋情」が、いい感じ。杜麗娘のイメージにもぴったりきます。
「この世の中に、恋情より濃いものがあろうものか」。どうでしょう。

それにしても、「恋心」か「情」か「恋情」なのか。
こんな疑問を抱いたきっかけは、やはり玉三郎さんの杜麗娘が素晴らしかったから
すぐ目の前で杜麗娘が生きていたから、にほかなりません。
湯先生言うところの「感受性が高いということは、品格が高いということ」は
そのまま玉さんに当てはまる言葉だなあ、と心に刺さりました

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恋情

ええわぁ・・・・きゅんっ!

うひひ

まるこさん
清き一票、ありがとうございます。
恋情、、、きゅんきゅんきゅん。

玉さんは、それぞれの場で、実にさまざまな
杜麗娘の顔を見せてくれます。
あの一つ一つが「情」の正体なんですね。
多情の玉さん、素晴らしい。もちろん恋情も。

恋という情念

またまた素晴らしい本をご紹介いただき、感謝感謝です。
さっそく注文しましたが、桔梗さんの要約以上の読み方はできないかも。

初日、二日目と「牡丹亭」をみたあと、ブログ探索のあいまに、シネマ歌舞伎版とか、TBSの「牡丹亭」特別番組とかみて、舞台を思い出しています。

「恋心」と「情」問題は気になっていたのですが、ふたつ発見しました。桔梗さんの紹介されているところ「TVの牡丹亭特集で玉さんが手に持つ資料に「世間何物以情濃」」、プリントにはその下に発音のカタカナ表記、その下の行には、日本語訳があって、そこには、「世の中に恋の情より濃いものがあろうか」とあるのをみました。
「恋」でも「恋心」でも「情」でもなく、「恋の情」!
「恋という情念」、という意味ではないかな、と思いました。

もうひとつは、シネマ歌舞伎の冒頭、あらすじのナレーションが流れている間、画面は中国文の漢字が映っています。そこの最後の文に、「恋情」という文言がありました。「情」だけではなくて。

ナレーションでは「そして、情と命の輝きが生まれる」と言ってました。
ここで、なんで、「恋」をはずすかな、と思いました。

桔梗さんのーーー「この世の中に、恋情より濃いものがあろうものか」。どうでしょう。ーーー 賛成します。

「恋心」となると、もっと刹那的な感じがするし、わたしなどまず思い出すのは、「こいはふしぎねー」ではじまる岸洋子のカンツォーネ。牡丹亭の雰囲気とは違うと思います。
この舞台も映像化していただきたいですが、そのときは字幕をもいちど練り直していただきたいです。

牡丹亭観劇は、あと2回予定しています。じつにじつに楽しみです。

恋の情

京にんじんさん

さすが、よく見ていらっしゃいますね!

>日本語訳があって、そこには、
「世の中に恋の情より濃いものがあろうか」とあるのをみました。

なるほど~「恋の情」。これ、いいですね。
恋のメラメラ感も、フワフワ感も、奥深さも表現されていて。
なぜ、このままじゃなかったんだろう。
思うに、翻訳の方も、迷いに迷って、シネマ歌舞伎になる時点で
より多くのお客さんに理解されやすい言葉ということで
「恋心」にしたのではないかなと憶測しています。違うかな。

>「恋心」となると、もっと刹那的な感じがするし、わたしなどまず思い出すのは、
「こいはふしぎねー」ではじまる岸洋子のカンツォーネ。

そうなんですよね、「恋心」じゃ、ちょっと物足りないというか
好みの問題になるかもしれませんが、杜麗娘の風情じゃないんですよね。

>最後の文に、「恋情」という文言がありました。「情」だけではなくて。
 ナレーションでは「そして、情と命の輝きが生まれる」と言ってました。
 ここで、なんで、「恋」をはずすかな、と思いました。

ふむふむ、やっぱり、牡丹亭の「恋情」と「情」をどのように解釈して
日本語で伝えたらいいか、という点で、結論が出ないまま、漠然とした表現で
発信されてしまったのでしょうかねえ。

>桔梗さんのーーー「この世の中に、恋情より濃いものがあろうものか」。どうでしょう。
 ーーー 賛成します。

催促しちゃったみたいで、どうもあいすいません~。選挙じゃないですけど
感覚的に共感していただけて嬉しいです。

「牡丹亭」の広報という点では、新聞広告にしてもCFにしても
これまでの「牡丹亭」をじっくり観て熟考している宣伝の総指揮官が不在な感じですよね。
すべての表現が、わりと表面的で、とっちらかっていて残念です。
新聞広告は、朝日と読売は「美の極み」などの変なキャッチで
日経はキャッチ無しで「牡丹亭」に関する解説が丁寧に載っていました。
日経が一番良かったです。なぜ、朝日も読売も、そうしなかったのでしょう。

玉三郎さんが時間をかけて創り上げてきように、宣伝にも、もっと
じっくり時間をかけて練りに練って制作して欲しかったなあ、と思います。
字幕は別ですけどね。話しがずれちゃいました。すみません。

あと二回の観劇!楽しみですね。
京にんじんさん、今月は、東京にんじんさんですねe-68
ぜひ、また感想などよろしくお願いいたします。

不意打ち

「美の極み」とは安易な表現でしたね。女形玉三郎さんにとって、喜怒哀楽、いろんな表情をみせることができるお役なので、そのへんをたっぷり宣伝していただきたいものです。

遅くなりましたが、初日、二日目の感想をまとめておきます。
南座ではじめてみたとき、感心して安心したのは、玉三郎さんの歌い方でした。
しゃくるような歌い方をまねた感じはすこしもなかったので、すんなりと耳に入ってきました。
今回は歌声にますますみがきがかかって、南座初演のときよりも、シネマ歌舞伎のときよりも、もっと声がきれいに澄んでいるように思いました。
「・・・モッ・・・」とか、ときどき、ふっと切るところがなんともいえず、好きです。

歌だけではなくて、長い袖にかくれたひじの使い方、うしろにまえに歩く歩き方、顔のかたむけかた、指のかたち、もう全部、やわらかくて微妙ですてきでした。

南座のときに、特に感動した箇所がふたつあって、おなじ感動があるかどうか待っていました。
どちらも「離魂」。
ひとつは、うすぐらい部屋で春香に、ちかくにくるように言います。
春香はおどろいて、「ここにいます」と返します。
あー、もう目が見えないんだ、と思って、ぐっときました。
観客に間接的にわからせるうまいやりとりだと思いました。

ふたつめ、母親を押しやって「離れてください」といいます。
母親はおどろいて、「どうしてそんなことを」といいながら、後ずさりします。
牡麗嬢は、「育てていただいたお礼をいわなければなりません」といいます。
あー、もう死にそうなのに、こんなにきちんとしている、と思って、びっくりして、ぐっときました。
良家の子女ということをあらわしているとあとで考えました。

不意打ちのような飛躍したセリフ、しぐさ、そのあと、理由がわかって感動、というパターンがときどきあるようです。うまい脚本だと思いました。

「遊園」も好きです。堪能しました。「春愁」という言葉をひさしぶりに思い出したような気がします。扇のあつかいが美しかったです。

さて、次回の観劇まで、他の方の観劇記、録画の鑑賞、「情」の研究(?)などして、やりすごすことにいたします。

今回は

京にんじんさん

これまた秀逸です、よね。

南座も(京にんじんさんが撃沈した)、シネマ歌舞伎も
その都度、感動の海の底まで沈んで堪能していたはずなのに
あーそれなのに、それなのに~。

今回の、玉さんの歌、舞い、台詞、しぐさ、昆劇院の方々の舞いや歌、台詞
などなど、もう完成版だと思います。
素晴らしいですね。

>春香はおどろいて、「ここにいます」と返します。

ここ、胸に迫りました。春香の動揺が、グッときますね。
あと、幼いころからいつも一緒で仲良しだったという
杜麗娘のくだりで、もう、陥落です。

>ふたつめ、母親を押しやって「離れてください」といいます。

ここも、きますよね。私は、母が、先に亡くなってしまったので
母への感謝とか、いろいろな思いが交錯して、
もう、ここではタオルが必要です。おいおい泣いちゃいます。

湯先生のことを知れば知るほど、
人間として好きかもしれないなと思っています。
戯曲は、人間ですもんね。

・・・・・・(泣)

・・・・・・・・観たかった・・・・・(泣)

もっと、もっと聞かせて。^^

まだまだ、これから。

まるこさん

聞きたいですよね~私も、聞きたい~。

「牡丹亭」は今日で11日め。
明日は中休みが入りますね。

玉さんと昆劇院の皆さんが、後半戦も体調万全で
千秋楽まで快適に、絶好調で過ごされますように!

そして、いらっしゃったみなみなさまの感想を
ぜひぜひ、聞かせてください~。

待ってまーす。よろしくお願いします。
ねえ、まるこさーん。
プロフィール

桔梗

Author:桔梗
坂東玉三郎さんの 芝居に舞踊に歌唱に舞台演出に 映画監督に朗読に執筆に 歩く姿も潜る姿も後ろ姿も素ッピンも☆☆ すべてに魂を揺さぶられ〜~ 玉さんブラヴォ----ッッッっ!なエブリデイ!

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