「演じるということ」③

今回の玉三郎さんの講演で、私が、特に感じ入って、
目から鱗がボロボロ落ちまくったのは
作家と脚本、そこに描かれている魂と、その台詞の読み方、
それを自分の言葉にする時の役者の取り組みについてのお話でした。



脚本を読む時も、生命力が必要である。
1ページ読んだ時に、「わかるねぇ、そうだね」となり、
行間には何が詰まっているんだろうと探っていく。
どんどん世界に入りこんでいくのでザッと読むことはできない。
書いてあることを、一回、自分の中に取り込んで、
自分の言葉にしないと喋れない。
今は、文章の1行1行にこだわる時代ではなくなったから
舞台で「てにをは」を間違えている人が多い。
それだと意味が微妙に違ってしまう。
木下順二さんや泉鏡花さん、三島由起夫さんなど
1行1行を吟味して書かれている脚本は1文字も変えることはできない。
「夕鶴」の台詞の微妙な間や、三島由紀夫さんの言葉の並び方の
難解さや、三島さんの台詞は独白系であることなど話されました。
有吉佐和子さんは、人間が生きていくとはどういうことなのかを
ずっと考えていた人。憎しみと愛情でつながっている人間のこと。
「ふるあめりか」のお園さんの生命力について。したたかで、しぶといんだけど
すごく純粋で傷つきやすい女。有吉さんが晩年、パーティの会場で
岩谷時子さんに会ったとたん「わたし、さみしいのよ」とおっしゃったこと。
僕はすごくよくわかる、と玉三郎さん。

今回の実技は、お園さんの「それにしても、よく降る雨だねぇ」を言ってみる、でした。
裏側に複雑な意味を持つ台詞を、どうやって喋るか。「よく降る」と嘆いているのか、
感嘆しているのか、あきらめているのか。ここが役者の解釈のしどころ。

この時に話された、芝居のエチュードのお話、がおもしろかったです。
言ってる台詞と、思っていることが別、というエチュード。
玉三郎さんの前のテーブルにあった眼鏡を手にとられて、たとえば
「これ眼鏡ですね」という台詞を斉藤先生に言う時に、素敵な講義をする先生に
言う時と、ひどい講義をする先生に言う時の言い換えをされたんです。
台詞はまったく同じなのに、思いが違う時の言い方について。
たとえば夫婦で、これから別れたい夫に言う「これ眼鏡ね」と、
ずっと一緒にいたい夫にいう「これ眼鏡ね」の違い。
戯曲の裏側に流れているいろんな感情を読むことが、戯曲を読むということ。

「それにしても、よく降る雨だねぇ」を、では全員でやってみましょう。と、
斉藤先生が、2つパターンをやってみましょう、と。Aは、ふつうに雨が降っている、
Bは、いろいろな思いをこめて言ってみる。Aをみんなで言ったら、
玉三郎さんが、「素晴らしいですね」と褒めてくださいました
そして、ここにはない雨を具体的にイメージするとよく言える、
「台詞とは、想念の羅列だ」とおっしゃったんです。壁のラインを全部雨だと思って
どしゃぶりだと思って言ってみましょう、と。

そして、Bパターン。自分の人生からその感情を割り出してからでないと言えない、
がっかりした経験を自分の中から見つけて、それをその台詞に乗せるんです。
これが、芝居なんです
、と、玉三郎さん。

目をつぶって自分の人生の中でがっかりしたことを思い起こしてください、と
おっしゃいました。私も、目をつぶって、どれにしようかな、と(笑)思い起こしました。
玉三郎さんが指揮者になって、「せーの」で、みんなで言いました。
「それにしても、よく降る雨だーねー」。
斉藤先生が、「打ちひしがれ過ぎて小さくなっちゃった」と(笑)。
玉三郎さんが、どんなに小さい声でも、聞こえなくてはならない。
芝居とは、「増幅と凝縮」なんです。
「よく降る雨だね」と思いながら、ジッと思いを溜めて(凝縮して)いると
(何も言わなくても)お客様は、ちゃんと見ている。台詞を言う前に、思いを溜めること。

もうひとつは、「ねぇ」という子音を、しっかり喋ること。子音の前に感情を溜める。  
「それにても、よく降る雨だぇ」
子音をちゃんと言わないと、感情は出ないんです。
感情が濃い時は、子音がしっかりしてる。おいい、って言うでしょう?

お酒を呑む動作をする時も、呑んだ感情を思い出さなけれなならない。
想念が出なければ、次の芝居は絶対にできない。
息を溜めている時に思いが出て、言葉はその結果でしか出てこない。


お酒を呑むところから。雨が見えました。人生が見えて、溜めました。はい。
「それにても、よく降る、雨だ~」。

人間は生きている間、全部、想念が連続している。途切れない。
それを役のまま動かすのが役づくり。僕の中にある想念、その細胞を発掘して、
生成して、並べていく。形と声がちゃんと出ないとダメ。
細胞を線にして面にして立体にして肉体にしていく。だから増幅なんです
情感がうわっと、出てくる体質じゃないとできない。エネルギーがいる。
形と思いをひとつにする、それがチグハグだと役柄にぴったりしない。
そのズレを修正していく、脚本にはずれないズレにしていくために、稽古していく。
型だけなら何もしなくていい。想念を抽出して、生成して、羅列したものがなければ、
役にはなりません、芝居にはなりません、見る価値はありません。




いやはや、目から鱗が落ちまくりポイントばかりで、
全部、文字をピンク色にしたいほどです。
鏡花さんの本を自分でも読むのですが、その台詞たちが
歌舞伎座の舞台の上で、玉三郎さんの口から、お言葉の蝶となって
ひらひらと舞う時、いつも鳥肌が立ちます。文字が、役者さんによって
言葉になるって、演出家によってお芝居になるって、こういうことなのか、と。
その理由がよ―――――――――――――く、わかりました。
こんなに大変なことを、いともサラッとやってらして
スゴイ方だなぁーって、あらためて感心することしきりでした。

最後に、「体幹」のお話になって、みんな立ち上がって
身体をひねって、どこまで見られるか、など、運動をしました。
ちょっと無理したら、背中にピキっと電流が走りました。
「背骨の可動域の幅が、人生の幅。背骨をやわらかくしておくことが
若くいる秘訣」だそうです。玉三郎さんは、背筋の伸び方からして超一流です。

玉三郎さんのお話は、とても具体的で、実践的。
いろいろなことに通じていて、イマジネーションを刺激されました。
演じるということに限らず、何をやるにしても、深く、じっくりと、
自分を掘り下げながら、取り組まなくてはイカンなぁ、と思いました。
帰り道、京にんじんさんが、しみじみと
「役者って、大変な仕事やぇ~。観る方で、よかった!」とおっしゃいました。
「ほんとに、ー」と、うなずきました。

玉三郎さんと、斉藤先生と、明治大学さんに、感謝いたします。
素晴らしい講演会を、どうもありがとうございました。
来年も、ぜひぜひぜひ、よろしくお願いいたします。

コメントの投稿

非公開コメント

はじめまして

はじめまして・・・時々、こっそりのぞかせていただいていました。

玉三郎さんの舞台も感動なのですが、桔梗さんのブログも、舞台の
描写が詳細で「すばらしい」といつも感心しておりました。
そんなこんなで、今日は初コメントをさせていただきました。

いつも、ありがとうございます。

はじめまして!

ちゃあさん

時々、こっそりのぞいてくださって(笑)
どうもありがとうございます。

そのように感じてくださって、嬉しいです。
涙ちょちょ切れ状態です。嘘じゃないです。

私は、なにを書いても、こんなこと書いちゃって、何だかな、って
いつも恥ずかしい思いで自信がないのです。
でも、何とか書くことで伝えたいと思って、また書くのですが
毎回、何だかな、って思うことの繰り返しで、
読んだ方はどう思っているんだろう、って不安になります。
なので、ちゃあさんのメッセージに、励ましていただきました。
どうもありがとうございます。

また、時々こっそり、のぞいて、でもって
コメントくださいね!

これからもよろしくお願いいたします。

わたしも、同感です

私も、桔梗さんのブログに滲み出るお言葉にいつも、素敵だと感じています。

お言葉の蝶となって、ひらひらと舞う時

まさに、そうだと思います。素敵な表現ですね。

玉さまに関することは勿論のこと、そのこと以外でも、桔梗さんが、感じられたことを桔梗さんのお言葉で表現していただき、私達に教えてくださいね。

講演会!

桔梗さん、詳細なレポートありがとうございました。
 
玉三郎さんの学生さんへの真摯な態度、ご自身のトンでいた幼少期のお話、脚本の読み体得していく様など、どれもこれも貴重なお話でした。
今回の実技は、演出家の玉三郎さんに指導していただいたような感じがして楽しかったです♪

来年も、講演会がありますこと期待してます!

「打男」楽日、私も行って参りました。
肩を痛めていたので拍手がうまくできなかったんですが、心の中ではめいいっぱいしてきました。

7月歌舞伎座のチケットも届き、気持ちはお富さん、お峰さんに向かってます!!

ありがとうございます。

ちょんぱさん

そんな風に書いてくださって、
ありがとうございます。
うぉーん(泣)。優しいちょんぱさん。

お言葉の蝶が~、は、鏡花さんの言葉を引用いたしました(笑)。
素敵な表現ですよね。鏡花さんらしいですね。

>そのこと以外でも、桔梗さんが、感じられたことを
 桔梗さんのお言葉で表現していただき、私達に教えてくださいね。

申し訳ありません。勇気づけていただいて
ほんとに恐縮しております。
でも、嬉しいです。うぉーん(泣)。

私は、ちょんぱさんの言葉でのコメントを、
いつも楽しませていただいています!
これからも、よろしくお願いいたしまする。

指揮者の玉さん。

あんずさん

今年の実演は、想定外で、台詞でしたね。
いつもは舞踊からの振りの実演でしたから
自分で台詞を言う、ということが、新鮮でした。

「それにしても、よく降る雨だね~」って
梅雨の今では、毎日、言ってもいいですよね。
(言わないけどね)
そこに、どんな思いを乗せるのか!
うー、難しい~。
がっかりしたことを思い起こすという作業が
何気に、楽しかったです。
今までに、いろいろがっかりしてるから、すべてが財産なのか、ってね。
玉三郎さんが、以前に「役者なら見ておけ」と言われて
何でも経験することが大事、とおっしゃっていましたが
いろんな思いで生きていることをどれだけ自分で感じているか、
そのすべてが自分の細胞になっているんですね。
何かを表現する上で、それが生きてくると思うと
なんでもアリかーって思います。

>肩を痛めていたので拍手がうまくできなかったんですが

え~っ、大丈夫ですか?
拍手ができないほど痛いって、かなり傷めてますよね。
7月の歌舞伎座で思いっきり拍手できるように
どうかお大事になさって早く回復しますように。

チケットが来ると、俄然、元気になりますよね。
チケット握りしめて、いつでも発信オッケー!
またお隣になるかな。楽しみにしております。

有難うーーー

今年の講演会に行けなかったので、
詳細なご報告有難うございます、
ひらひら舞う蝶々が私のところへも来てくれて、
講演会でのお話教えてもらえました。
桔梗さん有難う、
いつも「上手いなぁ〜作文」とありがたく読んでいます

表現をする時の裏ワザ、表より裏の方が奥深そう、そうでなきゃ表現は出来ないという事でしょうね…
裏表のある人間にはなりたくないけど
人を元気にするための裏ワザなら磨きたいなぁーと、ふと思いました

よかったです。

ムジコさん

明大講演会は、欠席だったんですよね。
喜んでいただけて、嬉しいですわ。
書いてよかったです。

人間って、複雑のような単純のような。
不思議な生き物ですよね。
その得たいの知れない感情を表現するって
やっぱり至難の技ですね。
裏がなければ表もないし
表がなくては裏もない(当たり前)
でも、裏に真実がある、って感じですね。
人間を掘り下げて、掘って掘って、
玉三郎さんの、あの表現が出てくるんだなぁ~って
とっても、感動いたしました。

7月大歌舞伎は、欠席しないでしょ。おほほほ。

本当によい時間でした

桔梗さん、至福の時でしたね。思い出していました。
あの講演、DVDにしてくれないかな〜。
ちょっとお高くっても買っちゃうんだけどな〜。
もう一度、寸分違わぬ形で、あの講演を聞きたいです。

有吉さんの「わたしさみしいのよ」が、よくわかるという玉三郎さん。
さみしさが分かる人って、温かさもわかるんですよね。

身体はあれから時々ひねってみるんですけど、お腹まわりが立派
すぎて、ヒネリきれているのか分からず、ただ苦しいばかり。
ただ、ひねりの幅は人生の幅ということでしたので、ここはちょっと頑張ってみようかと。

玉三郎さんの生の声がたくさん聞けて嬉しかったです。
本当に、目から鱗がポロポロ。
桔梗さんのレポートで、再確認できました。
ありがとうございました!

腸腰筋。

フクギさん

心に残る講演会でしたね。
ほんとにDVDになればいいのにね。
テレビで放送したら大反響でしょうね。
京都賞を受賞された時のワークショップで
学生さんを対象に行われた玉三郎さんの講演会が
NHKで放送されたんですよね。
あの時も、質問に対して真剣にお答えになられて
学生さんがいい笑顔をされていました。
今でも、何回も見返してしまいます。

あの時、玉三郎さんの胴体力がスゴイ、というお話になり
伊藤昇さんの理論をご存知の方は?と玉さんがおっしゃった時
「スーパーボディを読む」という伊藤昇さんの本を読んでいたので
心の中では、知ってますよーって万歳したかったのですが
恥ずかしくてジッとしていました。
なぜ読んだかというと、玉三郎さんが「たけしの誰でもピカソ」に
ご出演になられた時に伊藤昇先生がゲストで出られて
玉三郎さんのように腸腰筋を使える人は世界中でもいない、と
熱く語られていたんです。実際に、玉三郎さんが、
腸腰筋を鍛えるために普段行っている柔軟体操を披露してくださり
私も、真似して(できるものだけ)やっていたんです。
でも、このところサボっていたので、あの講演会の夜から(単純)
またやり始めたのですが、もうボキボキでアイテテテ~って。
身体は正直者ですね。でも、毎日やっていたら
だいぶ曲がるようになってきました。
人生の幅を広げるために!続けようと思います。ボキボキ。

有吉佐和子さんのお話をされている玉三郎さん、
しんみりとして、「ぼく、わかります」とおっしゃった
そのお気持ちが、ジワッと伝わってきました。
玉三郎さんのそういう人間味のあるところが、いいんですよねー。
やはり、あの演技に繋がっているのですね。
お園さんを地でいってるように見えてしまいます。

また来年もあるといいですね。
我々は二階席で全然オッケーですよね!
秘かに楽しみにしたいと思います。

プロフィール

桔梗

Author:桔梗
坂東玉三郎さんの 芝居に舞踊に歌唱に舞台演出に 映画監督に朗読に執筆に 歩く姿も潜る姿も後ろ姿も素ッピンも☆☆ すべてに魂を揺さぶられ〜~ 玉さんブラヴォ----ッッッっ!なエブリデイ!

カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
リンク